ISO 9001の改訂、2026年後半に延期の可能性

品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 9001の改訂は、2026年後半までずれ込む可能性が高くなっています。
当初は2025年末の発行が予定されていましたが、スケジュールの見直しが行われています。

2024年4月には、最初の草案である委員会草案 ISO 9001(CD1)が発行され、ISOの専門委員会であるISO/TC 176のメンバーに提出されました。

その後、2024年秋に開催された最新のISO会議において、委員会原案2(CD2)と呼ばれる追加の原案を作成することが決定されました。

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質の高い改訂に向けた一歩:CD2の策定が決定

この決定の背景には、現時点での文書の完成度が、次のステージである国際規格草案(DIS:Draft International Standard)として公開するには十分とは言えないとの判断があります。その結果、ISO/TC 176 SC2 WG 29では、**委員会原案2(CD2)**を新たに作成し、さらなる意見募集に供することとなりました。

ドイツ品質協会(DGQ)の標準化責任者であり、ISO委員会のメンバー、またDIN(ドイツ標準化委員会)の対応するミラー委員会の技術責任者を務めるトーマス・フォッツマイヤー(Thomas Votsmeier)氏は、次のように説明しています:

「このステップは、依然として明確化が求められている重要な論点に対応するために必要なものです。
一つは、ISO 9000に定義された用語や原則と、ISO 9001における具体的な要求事項との整合性を図ること、もう一つは、ISO Annex SLの共通構造仕様を正しく、明確に適用することに関するものです。」

この判断を受け、改訂作業のスケジュールは当初の24ヶ月から36ヶ月に延長され、改訂版ISO 9001の正式発行は2026年秋が見込まれています。

 

ISO 9001の改訂:新たな要求事項と見直しポイント

ISO 9001の改訂:新たな要求事項と見直しポイント
現時点では、ISO 9001の根本的な構造変更は予定されていません。今回の改訂では、他のマネジメントシステム規格との構造的な整合性の強化が中心課題となる一方で、附属書に記載された特定の要求事項の明確化も重要なテーマとなっています。

取り上げられる主なトピックには、以下のようなものがあります:

  • 倫理および誠実性
  • ビジョン、ミッション、価値観
  • 品質文化
  • 品質マネジメントにおけるリスクと機会の管理

これにあわせて、品質マネジメントの用語と原則を定義するISO 9000も改訂され、新たな定義や概念が追加される予定です。

こうした内容からも、今回のスケジュール変更は単なる遅延ではなく、より質の高い、将来を見据えた改訂版を開発するための綿密なプロセスであることがうかがえます。

 

改訂までの経緯:これまでのマイルストーン

改訂のプロセスは、2023年8月にISO/TC 176 SC2のメンバーによる単純多数決によって正式にスタートしました。なお、2020年の同様の投票では早期改訂案が否決されていた経緯があります。

  • 今回の改訂が承認された背景には、次のような要因があります:
  • 世界経済および地政学的環境の不確実性
  • 新技術(例:デジタル化、AIなど)の進展
  • ビジネス環境全体の急激な変化

これらを受けて、ISO/TC 176は品質マネジメントシステムの現代的な適用方法の見直しが不可欠であると判断しました。

 

新たなテーマ:改訂で取り上げられる主な課題

2023年12月にロンドンで開催された会議では、改訂の目的とスコープが改めて確認され、改訂プロジェクトの“設計仕様書”が承認されました。

ドイツ品質協会(DGQ)の標準化責任者であり、DINおよびISOで中心的役割を担うトーマス・ヴォッツマイヤー氏は、次のように述べています:

「この会議では、“新たなテーマ”と呼ばれる、改訂において重要な論点が多く議論されました。たとえば、ESGを含むグローバルな潮流の影響品質マネジメントの運用上の変化新技術の導入などが挙げられます。」

さらに、会議ではこれまでに寄せられた品質マネジメントに関する解釈要請のレビューも行われ、「リスク」と「機会」の定義の違い文書化の要求事項の整理QMシステムと組織全体のマネジメントとの統合的な理解などについて、初期的な議論が交わされました。

 

ISO 9000の改訂も並行して進行中

ISO 9001に加えて、品質マネジメントの原則や用語を定義するISO 9000も、同時に改訂作業が進められています。

具体的には:

  • 品質マネジメント7原則の見直し
  • 新しい定義または修正された用語の導入
  • 品質マネジメントにおけるリスクアセスメントの強化

これらの変更は、ISO 9001との整合性を保つ形で連携して反映される予定です。

また、マネジメントシステム監査の国際ガイドラインであるISO 19011の改訂も計画されていますが、こちらについては現時点で具体的なスケジュールは未定です。

専門家がISO 9001の改訂に期待すること

ISO 9001の改訂に向けた現時点での目標発行時期は2025年末とされています。
その一方で、現代および将来の課題を見据えた品質マネジメント規格への期待はすでに高まっています。

私たちはこれまで一貫して問いかけてきました。
「次のISO 9001は、現代の組織が直面する現実とどのように向き合うのか?」
「品質マネジメントは、いかにしてビジネスの持続可能性と変革に貢献できるのか?」

このような視点から、今後の改訂に対して多くの専門家がより実効性の高い、実務に即した枠組みを求めています。特に、持続可能性、リスクベースの思考、品質文化、そしてデジタル変革への対応といったテーマに対する明確な位置づけが期待されています。

christian ziebe moderator for management systems at DQS
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顧客中心のその先へ:私たちは、もっとできるのではないか?

サービスエクセレンスに関する審査員からの視点

クリスチャン・ジーベ氏は、ドイツに拠点を置くImpulse – Die Kommunikationsexperten社のマネージングディレクターであり、長年にわたりDQS主任審査員として、マネジメントシステムおよびサービスエクセレンスに関する審査を担当してきました。また、DQSアカデミーのワークショップやトレーニングでは、最新の監査プロセス・スキル・手法に関するセッションのモデレーターも務めており、教育・育成面でも幅広い貢献を果たしています。

顧客要求事項を満たすという目的は、ISO 9001の中核をなすものです。

顧客要求事項の収集と評価に加えて、顧客自身がプロセスの中で自己主張できるようになってきました。

規格の最終改訂版では、外部プロバイダーに対してさらに詳細な要求事項が与えられましたが、プロセスへの統合、失敗からの学習、そして「喜び」の要素に関しては、顧客の存在がより一層重要であると言えるでしょう。ここでのキーワードとなるのが、「カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)」です。

このテーマは、いくつかの問いを私たちに投げかけます:

  • 顧客は、どの程度プロセスやプロセス記述、スイムレーンに統合されているのでしょうか?
  • 顧客は、企業とのタッチポイントやコミュニケーションの中で、どのような体験をしているのでしょうか?
  • 顧客は、どのような誤りを犯し、それをどのように修正できるのでしょうか?
  • 継続的改善(CIP)の一環として、どのように顧客を真に巻き込むことができるのでしょうか?
  • 顧客の意見や提案を受け付ける「顧客アイデア管理システム」は存在しているのでしょうか?

これらすべての問いに明確な答えを持っているとしたら、その組織は間違いなく「顧客に精通した会社」であると言えるでしょう。実際、こうした観点は、早くも2011年にドイツで発行されたDIN SPEC 77224「サービスエクセレンスによる顧客感動の実現」の中に示されています。この文書は、顧客を巻き込み、組織の全体像を観察するうえで、有益なガイドになると思われます。

また、このプロセスにおける従業員の役割について考えることも重要です。DIN SPEC 77224の中では、熱意ある従業員が顧客の心を動かす存在になり得ることが述べられています。したがって、カスタマー・エクスペリエンスというテーマがISO 9001の改訂対象として検討されているのであれば、それは品質マネジメントにとどまらず、より広範なマネジメントシステム全体に影響を与える可能性があると言えるでしょう。

Dr. Wilhelm Griga, Senior Quality Manager Digital Industries at Siemens AG, Germany
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注目すべき「新たな潮流」にフォーカスを

改訂に対するユーザーの見解

ヴィルヘルム・グリガ博士は、シーメンスAG デジタルインダストリーズ部門におけるシニア品質マネジャーであり、組織開発、デジタルトランスフォーメーション、アジャイルマネジメントシステム、持続可能な不適合管理、そして最新の監査マネジメントに重点を置いて活動されています。また、同氏はISO 9001改訂に向けたシーメンス社内ワーキンググループのメンバーでもあります。

私がISO 9001:2015の改訂に期待することは、組織にとっての移行の負担が最小限に抑えられると同時に、より高いレベルで実証可能な実施品質が実現されることです。品質マネジメント規格の改訂は、世界的に品質重視の姿勢を一層強化し、より効果的かつ環境に配慮したプロセスの確立、そして顧客満足度のさらなる向上に貢献するはずです。

今回の改訂が、品質マネジメントシステムにとって重要な「新たなトレンド」に焦点を当てていることを歓迎します。これは、将来の市場ニーズに応えるために、新しい技術やビジネスモデルが規格要求事項へと統合されることを意味しています。

こうした調整が加えられたとしても、ISO 9001は、世界中のさまざまな業種・業界、規模の組織に適用可能な汎用規格であり続けるべきです。このようなアプローチによって、品質マネジメントシステムの評価が一貫性と信頼性をもって行われることが可能となり、それが顧客やビジネスパートナーとの信頼構築につながります。

moderatorin-dqs-martina scharwey
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ポジティブなリーダーシップと変革文化の表現としての品質マネジメント

改訂に関する専門家の見解

マルティナ・シャルヴァイは、DQS GmbHのシニア主任審査員であり、TQM(総合的品質マネジメント)審査員としても豊富な経験を有しています。また、KPIマネジメント、プロセス設計、品質マネジメント、リスクマネジメントの分野において、実務に根差した深い専門知識を持つエキスパートです。

プロセス、期待される結果、順序、および資源を決定し、その利用可能性を確保する必要があります。ISO 9001:2015におけるこれらの要求事項は、柔軟性、回復力、俊敏性、そして変化がますます重要な成功要因となる今日、そしてとりわけ将来の世界においても適しているのでしょうか?

私の答えは、「イエス」でもあり「ノー」でもあります。

組織内のサービスプロバイダーやサービス部門は、特にアジャイルで柔軟な方法で業務を行う必要があります。そうした中で、プロセスの結果をあらかじめ計画したり、固定的に決定したりすることは本当に可能でしょうか?
私の見解では、多くの場合それは難しいと言えます。
次回のISO 9001の改訂では、こうした実情が十分に考慮される必要があると考えます。

新たな規格要求事項に対して、組織が示す柔軟性や俊敏性は確かに有意義なものです。しかし、それだけでは不十分です。

要求事項の設計にあたっては、

  • 権威や支配ではなく信頼に基づく企業文化
  • 積極的なリーダーシップと変革志向の文化
  • デジタル化によって生まれる機会を持続可能に活用する視点

といった要素を重視すべきです。

さらに、デジタル化やAIによって代替が難しい“人材集約的な分野”では、人口動態の変化や若年層の価値観の急激な変化による影響が、より深刻に現れる傾向があります。

このような背景から、人的資源の確保と維持は、ISO 9001が追加要求事項として正式に取り扱うべき「本質的なリスク」の一つであると考えます。

2015年からのISO 9001改訂

品質マネジメントシステムに関するISO 9001:2015の「大改訂」は、当時大きな注目を集めました。「組織の文脈」「関連する利害関係者への配慮」「トップマネジメントの責任の明確化」「組織の知識」「リスクに基づくアプローチ」といったキーワードには、実務改善に向けた大きな可能性が秘められていたのです。

当時としては革新的であった新しい調和構造(High Level Structure/HLS)および新たに導入された要求事項は、多くの企業にとってマネジメントシステムの再考を促す契機となりました。

2015年のISO 9001改訂は、大きな構造的変更を伴うものでしたが、それだけでなく、企業が自社のマネジメントシステムを将来に適合させていくための、数多くの小さな改善点も含まれていたのです。

ISO 9001の歴史

品質マネジメントシステムの連綿と続くサクセスストーリーは、今から35年以上前に始まりました

1986年8月28日、DQSは草案に基づいて世界で初めてのISO 9001認証書を発行しています。

ISO9001の改訂とその歩みに関する記事をぜひご覧いただき、品質マネジメントの歴史をたどる時を超えた旅にご参加ください

DQSの ISO9001 認証サービス

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ISO 9001の改訂 - 概要

ISO 9001の改訂は、2026年まで延期される見通しとなっています。今回の改訂では、倫理と誠実さ、ビジョン、ミッションと価値観、品質文化、機会とリスクの管理といった重要なテーマが、中心的な役割を果たすことになります。

また、他のマネジメントシステム規格とのより良い連携を実現するために、規格の構造は「調和構造(Harmonized Structure)」へと適合される予定です。

加えて、具体的な要求事項の明確化や、特に解説附属書の記述の明確化も計画されています。これらの要素は、健全で未来志向の規格を開発するために、改訂作業を慎重かつ段階的に進めていく必要性を示しています。

さらに、今回の改訂には、ISO 9000(品質マネジメントシステム−基礎及び語彙)およびISO 19011(マネジメントシステム監査のための指針)の見直しも含まれています。

DQS – 設立当初から最適なパートナー

DQSは、1985年にドイツ初の認証機関として設立されました。それ以来、DQSは世界をリードする審査・認証のエキスパートとして、お客様の信頼に応え続けています。

設立当初からのパートナーであるDGQ(ドイツ品質協会)およびDIN(ドイツ標準化協会)は、標準化に関する取り組みのみならず、トレーニングや継続教育の面でも重要な連携先となっています。

DQSは、お客様の利益のために、各種委員会や業界団体への積極的な参加を通じて、専門的な知見を監査に反映させています。
私たちは、「審査チェックリストが終わったその先からが、DQSの本領発揮です」という姿勢で取り組んでいます。
 

信頼と専門知識に基づく情報提供

DQSが提供するすべてのテキストやパンフレットは、当社の規格専門家または長年の経験を持つ監査員によって執筆されています。

内容に関するご質問や、サービスについて詳しく知りたい場合は、各テキストの著者までお気軽にお問い合わせください

著者名
ナジャ ゲッツ

ISO 9001のプロダクト・マネージャー、健康管理システムおよびBSI-KRITIS監査のDQSエキスパート、そしてリハビリテーションおよび入院・外来治療の様々な品質基準の審査員およびプロダクト・マネージャーです。

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